【コラム】クロ宗の原典「鬼無鬼島」を読む

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

以前書いた「クロ宗」。
このお話の恐らくのキッカケと思われる本が1957年(昭和32年)に出版された堀田善衛の『鬼無鬼島』です。
というわけで早速読んでみました。
旧字体で書かれているために読みづらかったですが、慣れてくると物語にぐんぐん引きこまれます。
めちゃくちゃ面白かったです。
で、多分今から本気で読もうとする人もいないと思いますので(旧字で大変ですし)、さくっと粗筋を書いておきます。
もしどうしても自分で読みたいなら、ここで閉じてください^^;

物語は鬼無鬼島と呼ばれる島が舞台になります。
ここには山部落と海部落という大きく2つの部落があり、互いの交流はほぼありません。
なぜなら、海部落の者にとっては山部落の者の因習がまことしやかに伝えられているから。

海部落の先祖は平家の落人と言われており、山部落は島原から逃れた隠れキリシタンだと言われています。
ですがキリシタン信仰は土着信仰と交わり、海部落のものからは「クロ(クロ宗)」などと呼ばれるようになっています。
その風習は、クロの集会に集まっている者達の下駄は全て裏返しにしていたり、トイレは便器を足を跨いで十字(クロス)を切らないように、入り口から入って直進に作られていたり。
さらには誰も見たことがない風習として、瀕死の人間が現れたときはサカエと呼ばれる長が生肝を食べるなどという話が伝わっています。

この物語の主人公は、友則と呼ばれる青年です。彼は山部落、つまりクロの血を引いています。
クロは外界との関わりをほぼ断っているため、同族での近親婚が半ば同然になっています。
生まれてすぐに許嫁が決められる風習があり、友則の場合は京子という白痴の女性でした。
いつも「と~も~の~りぃ~」と尻上がりで呼んでいます。

ですが友則には海部落出身の早子という恋人がいました。
友則も早子も島を抜けて生活をしようと思っていました。
すぐにそれが実行できない理由が友則の兄の存在でした。
兄は結核を患っており、兄が瀕死になった際に生肝をとられるのではないか、もしそうなってしまったらその現場を押さえてやりたい、と思っていました。

物語は急展開を迎えます。
ある日、友則と早子が逢引をしているところを後から友則を追っかけていた京子が目撃してしまいます。
それで京子はクロで伝えられている呪い「ドン打ち」を早子の家に仕掛ます。
ドン打ちとは呪殺系の呪術で、呪い殺したい相手の家にヒキガエルを五寸釘で打ち付けます。
そして京子がこれをやったと村で言いふらします。

困ったのがクロの長のサカヤである家成でした。
クロといっても実体は意味も知らない祝詞を上げるような形式的なもので、神秘的な魔術のようなたぐいのものは存在しないからです。
ですがこの時は早子の父が殴りこみに来たお陰で体良くあしらうことで難を逃れます。

しかしこの現場を見た京子が遂にプッツンします。
友則も母もいない時に兄の喉首を掻っ切って殺害、そのまま早子宅に押しかけ寝込みを襲います。
目が開けた時には刃物を持った京子。
「と~も~の~りぃ~~」と叫んで切りつけます。まじこわいです。

最終的に京子は取り押さえられ、以後柱にぐるぐる巻にされ余生を送ります。
幸い早子は生命に別条なし。
兄の亡骸に駆けつけた友則は同じく駆けつけてきたサカヤの家成と友則の母と鉢合わせ、そのまま家に篭ったところで、クロ宗の真相が語られるわけです。

実際クロ宗はキリシタンが元かどうかも分からない唯の土着宗教で、その集落のアイデンティティを保つための道具みたいなものだった、ということです。生肝を食べるというのも、一生に一度あるかないかの本当に部落としての団結力を高めるときにのみ行われるものだった、と。

クロ宗としての誇りや秘術といったものを信じていた友則の母は、この事実を端で聞き、それから魂が抜けたようにほぉーするようになります。ドン打ちをしてまでクロの力を信じていた京子に、自らの息子を殺されたにもかかわらず、自分の魂が親しいと感じ世話するようになります。
友則と早子は結婚し女の子を出産しますが、その生活は何処か不安を残して物語は終わります。

日本の横溝正史調な閉鎖的な田舎のイメージ、風習・因習、土着宗教、いやぁ素晴らしい。
クロの実体がブラフってのは、まぁそうだよな、と。(某同人ゲームを思い出しましたよ)
にしても……これ昭和32年の作品なんですね。
全然、ホラー映画化できそうw
「と~も~の~りぃ~~」っていう京子のシーンは絶対トラウマになるはず。
多分、映像化したら相当京子が可愛くなる気がします。
読んでて可愛すぎる。ああ、やっぱ馬鹿な子ほどカワイんだなぁ。
なので、いきなり腹を蹴って崖から落とした友則は万死に値すると思います、えぇ。

こうやって鬼無鬼島読んでみると怪異譚としての「クロ宗」はこの作品から拾ってきてるんだろうなぁというのは想像に難くないですね。
ただ、クロ宗自体は下甑町片野浦で信仰されていたものだと「角川日本地名大辞典 46 鹿児島県」に書かれてるらしいです。具体的な中身まではわかりません。
機会があったら調べてみたいところです。

※現在の下甑町片野浦のストリートビュー

人気ブログランキング
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

コメント

  1. 三毛猫 より:

    LAPT氏のブログのコメに紹介されていて、検索し、此処にお邪魔しました。かなり以前に鹿児島の隠れキリシタンを取り上げてたテレビ番組がありましたが、クロ宗は初耳でした。ザビエルを日本に招いたヤジロウという人物の事も知りませんでしたが、心臓を手にしたザビエルの不思議な絵の意味がわかりました。アルメイダやキリシタン大名らが、人身売買に手を染めていたのは、キリスト教の皮を被った悪魔教って事だからでしょうね。図書館で取り寄せて、読んでみたいと思いました。

  2. kaiitan より:

    宗教対立の果てに訪れたザビエルの狙いや、火薬欲しさに日本人を売り飛ばすキリシタン大名などは、まず教科書には載らないお話ですね。
    「キリスト教の皮を被った悪魔教」という表現は面白いですね。
    むしろ戦争の火種作ってるのはいつの時代も……おっとこの辺でやめておきましょう(笑)
    この辺の話は怪談とも民俗学とも違うので特に当ブログで触れるつもりはありませんが面白いネタですよね。

  3. ぱらいぞう より:

    面白い
    土着宗教系の話題が好きなので参考になりました

コメントを残す


日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleのプライバシーポリシー利用規約が適用されます。

SNSでもご購読できます。