夏休みのめんどくさい宿題ベスト3と言えば、自由研究、絵、そして読書感想文かな、と個人的には思ってます。
で、折角なので子供の頃でも思い出しながら最近読んだ本の感想でも書いてみます。
もっとも、この本を読書感想文の題材としてチョイスしたら親を呼ばれるかもしれません。
かなりエグい犯罪ドキュメントですから。
■共犯者/山崎永幸(新潮社「新潮社クライムファイル」)
埼玉県で起きた愛犬家連続殺人事件の共犯者である山崎永幸が書いたドキュメンタリー。
そしてこの著者として名前が出ている山崎永幸氏は、なんとこの事件の共犯者。
殺人の現場や死体を切り刻む現場に立ち会っていた本人の口から語られる本なわけで、当然非常にリアリティがあります。
事件が明るみになったきっかけは、当時大阪で愛犬家が連続して失踪するという事件が発生し捜査の結果、犬の訓練士が逮捕された際、埼玉でも似たように愛犬家が失踪していると噂が流れたことから。
マスコミが先行して押しかけたため、逮捕された犯人の顔が連日ワイドショーに流れていたので記憶のある方も多いかもしれません。(本によると、当の山崎はこのワイドショーを入院先の病院で見ていたらしい)
この事件を説明するのは少々複雑です。
というのも、この本を信じる限り山崎自身は途中参加だから。
発端がわからない以上、どうしても部分部分な説明にならざるを得ないわけです。
まずはこの共犯者である山崎が何者なのかを補足します。
山崎は子供の喘息の療養を目的に群馬の片品村に引っ越してそこで近所のペットショップでブルドッグを購入。
後に子供が1匹だけじゃかわいそうと言ったので2匹めを購入。
その時の店員との会話でブルドッグのブリードをやってみようと思い立ちます。
そして山崎のブルドッグ専門店「犬屋」は大繁盛します。
この場所こそ後に「ボティーを透明に」していった、列車で作った通称「ポッポハウス」です。
しかしながら妻が田舎暮らしに耐え切れず、結局子供とともに東京に戻ることに。
そもそも喘息の療養だったはずなのに不思議な話ですね。
その後、山崎はこの事件の主犯である関根と出会います。
関根は熊谷の一等地にペットショップ「アフリカケンネル」を経営していました。(※登記上の経営者は妻である風間)
ジャパン・ケンネル・クラブ主催のドッグショーで、駐車場に止まる車のワイパーにチラシを挟んでいる時に初めて会話を交わしたそうです。その際に「役員になってくれれば月50万出す」とか「非常勤でいい」といわれ、2週間後関根に電話してしまいます。
山崎にとってのターニングポイントはここだったのかもしれません。
どう考えてもそんなうまい話はないだろうと思うんですが、ジャガーに乗ってて(関根は無免だが埼玉県にパトカーを10台寄付しているから大丈夫と言っていたとのこと)、「愛犬の友」という専門誌に毎月でかでかと広告を打ちまくって、さらに熊谷の八木橋百貨店の斜め向かいという一等地で経営してたら、そういうオカシイという感覚が薄らいでいたのかもしれません。(ついでにいうと、パチンコ屋を10件にクルーザーを2台所有していたと言ったらしいがおそらく嘘)
犬屋の商売の方も順風満帆だったようですから、まさに調子のいい時ほど足をすくわれやすいという状況で見事すくわれてしまったんでしょう。
その結果が、当初の役員報酬なんて貰うことが出来ず(金銭トラブルの解決策として殺人を繰り返す関根を見て要求することができなくなった)、いつ殺されてもおかしくない連続殺人事件の共犯者として働かされ、最終的に実刑を受けるはめになってしまいます。
ここまで読むと分かると思いますが、関根という主犯の男は「極度の虚言癖」があるようです。
関根の虚言癖は子供の頃にまで遡るようで、同世代からは「ホラ元」などと呼ばれていました。
山崎に出会って間もない頃に、俺には朝鮮人の血が流れていて本名は「鄭」で玄界灘を泳いできたと言ったらしいですが、後に姉の存在が分かりこれも関根の嘘だったと書いています。
ただ関根の虚言癖は、本人の真剣度はともかく、嘘と分かっている周囲の人間にとって見ればそこそこ楽しいもので、魅力的に映ったりしたのかも知れません。
この辺りまでで本書の序文程度なのですが、そもそもこの本を読もうと思ったのは、稲川淳二がこの愛犬家殺人事件について話していたのを聞いたことがあったからです。
これについては過去のコラムで紹介してますが、その際にこの犯人が人当たりもいいし話も面白いけれども、口を開けば嘘ばっかり言っていたという下りがあります。
DVDではなぜ関根にあったことがあるのかを具体的に語られていませんでしたが、どうやらアフリカケンネルの広告にでていたらしいです。
どういった接点からなのかは気になるところでしたが、それについては本書でも触れられていませんでした。
本書ではこの後、どのように連続殺人が行われていったか、その時山崎自身が何をしていたのかなどが、語られていきます。冒頭でさらっと書いた「ボティーを透明に」する過程も詳しく。
臭いのは肉だから肉と骨とを完全に分ける。(徹底的に分けてたようで、頭蓋骨から脳みそをえぐりだしたりしてたようです)肉はサイコロ状に小さく切り川に流しお魚さんに食べてもらう。骨はドラム缶で1本1本丁寧に焼いていくとしっかり焼けて簡単に粉末状になる。これを森にばらまけば「ボティーは透明に」なる。
解体現場はポッポハウスの風呂場。解体時に出る血が川に流れて色がつくのをごまかすためにバスクリンを大量に使用。また、骨を焼くときには臭み消しとして醤油をかけたりしていた。
このような話が延々と語られているわけです。エグいです。
そういえば、稲川さんはこの愛犬家の話をするときに、死体を処理したミキサーを見たと言っているのですが、死体の処理にミキサーを使用したというような件は本書では見当たりませんでした。
非常に細かく描写している本書に書いていないので、おそらくミキサーは使っていないのではないかと思います。
また、本書のラストでは捕まった後の山崎の取り調べの話が語られていますが別の意味でエグいです。
事件解決のためと謳い、山崎を騙して証言を引き出させ、自身は昇進していく。
証言を出させるために、嫁さん(最初の嫁でなく離婚して別の女性と結婚している)を呼び出して席を外しエッチする機会を与える(2回)。
このような凶悪犯罪の事件ですら(だからこそ?)、検察の点数稼ぎに利用されるのかと思うと、なんだかやるせない気持ちになります。
それと読んでいて気になった点が。
この事件の主犯は関根とその妻の風間両名が対等の立場で行ったとし、死刑を宣告しています。
ですが本書を読む限り、妻の風間が果たして対等の立場で事件を起こしたのか、というのは疑問符がつきます。
関根の最初の殺人はバイト先のラーメン屋の店主と言っています。金を持ち出しラーメン屋ごと燃やして事件を隠蔽したらしいですが、実際この事件は発生しているものの詳しく語られていないのでおそらく事件発生から逮捕に至る間で時効になっているのでしょう。この事件から山崎が関わる最初の殺人までに、関根は31人殺害していると山崎に言ったようです。虚言癖のある関根ですが、これについては嘘とも思えず、警察も関根の周辺で分かっているだけでも10数人が失踪しているとのことです。
関根の殺人を山崎と同じように子供を殺す(子どもは風間の連れ子で度々暴力を振るわれている様が目撃されている)などと脅されて手伝わされてきたと考えたほうが合点がいきます。
これについては本書中に山崎もそう考えて書いています。
元々が資産家である風間(母親の資産は5億円)が、金銭目的の連続殺人を犯す山崎と共謀するというのは、どう考えても無理があるでしょう。
もっとも、死体の解体は関根と風間がやっていたわけですが、山崎が関わった第2の事件の解体中に風間は演歌を歌いながら作業していた(※本書の中では歌のタイトルも書かれてます)らしいので、最初のうちは嫌々だったとしても、この時点ではもう慣れっこになっているようです。
物証についても、死体がないもののお守りや時計が山や川にあったという点のみで殺人事件が立証されているんでしょうか。実際に骨粉等は見つかったようですが、徹底的に燃やされてるので誰のものかDNAどころか人のものであるらしいくらいしか分からなかったようで、殺したかどうかの証拠がお守りや時計で、実際に死んだ証拠が提出されていないってことでしょうか。それで殺人事件として通っちゃったってことなんですかね。不思議です。
裁判自体はすでに終わってしまっているので、これ以上の真実は再審でもしない限り現れてこないでしょう。(風間被告については何やら再審に向けての動きもあるようですが)
読み終わってみると、山崎は小心者であるがゆえに共犯者として行動と共にされ、小心者であるがゆえに生き残ることが出来、結果事件の解明がなされたわけですが、別に山崎がいてもいなくても関根は殺人を金銭トラブルの解決に使ってたわけで、ペットショップで金づるの選別をして、トラブルになったらボティを透明にしつづけていたことでしょうから、山崎の存在は事件解決にはどうしても必要だったなと感じます。
嫁息子殺すと脅迫されて手伝わさせられて、しかも殺人自体は犯していないにもかかわらず、殺人容疑で立件され(山崎はこの件で今まで協力して証言してきたのをやめるようになる)実刑を食らうというのは、解せないという気はします。当人ならなおさらでしょう。
検事は、脅迫されたとはいえ片棒担いだ人間が執行猶予付きだなんて誰も納得しないから、実刑は仕方ないといったそうですが、納得するしないじゃなくて事実としてやってないもので刑に処せられるのは、それこそ納得いかないでしょうに。しかも執行猶予がつくと言っていたにもかかわらずの手のひら返しですから。
結局、山崎が取り調べで語られなかった内容が本書に残った形になっているわけで、途中から山崎が黙秘をしなければ風間の裁判結果にも何らかの変化があったのではと思わずにはいられません。検察は山崎の殺人容疑をかけた事件の主犯を風間として立件していたのですから。
なお本書は「共犯者」というタイトルで出版された後、「愛犬家殺人事件」というタイトルで文庫化されその際に筆者の名前を志麻永幸というペンネームに変えてます。
ただ、これを読んだらわかると思いますが、明らかにゴーストライターだろ、と感じる巧さがあります。
実際この後、「悪魔を憐れむ歌」と改題され、内容を修正されたものが作家の蓮見圭一さんの著書として発売されていますので、元々、蓮見圭一さんが山崎から話を聞きながら書いたのでしょう。
「悪魔を憐れむ歌」については、実名ではなくなってしまった前作のリメイクと捉えて問題ありません。
また、事件を映画化した「冷たい熱帯魚」という作品が園子温監督のもとで作られています。
この作品、私も観ましたが再現ドキュメントではなくオマージュです。
ペットショップは熱帯魚屋さんに変えられ、アフリカケンネルも大きな熱帯魚屋に直されてます。
妻と子も一緒に暮らしてますが、関根の映画上の設定の村田にそそのかされ体の関係を持ったりしてます。
子供は万引きして捕まったのを村田が更生させるために住み込みで働かせるようになります。(この住み込みで年端の行かない女子を囲う点はアフリカケンネルと同じ)
犯行部分は概ね本書と同じなんですが、ただラストは全然違います。
ラストは捕まる前に主人公が村田を殺し、その解体を村田の妻にさせて、自身は妻を刺し首を切って自殺して終わります。
村田役のでんでんさんの怪演が目を引きますが、主人公の社本役の吹越さんも小物ぽい雰囲気を出して素晴らしい演技です。
それだけに村田が、子供の頃に親から虐待を受け続けてきて、最後に子供がえりするシーンは絶対にいらないですね。中途半端な設定極まりないです。
ところで、貴志祐介さんという作家が書いたサスペンス小説に「悪の教典」という作品があります。
悪の教典は、サイコパスだけれど知能が非常に高い主人公が、次々と邪魔な人間を殺して自分の世界をつくっていく話ですが、この主人公の名前はハスミンこと「蓮実聖司」、そしてハスミンの裏の顔を暴こうとした学生の名前が「早水圭介」。
名前を合わせたら、何となく共犯者を書いた蓮見圭一さんと名前が似てる(蓮実圭介)気がしますが、たまたま、ですよね?
そういえば、吹越さんは悪の教典の映画にも出てたようですが。何だか奇妙な接点を感じます。
さて、実は犯罪ルポ系の本をこの他2冊読んでて一緒に書こうと思ったんですが、分量が増えすぎたのでとりあえずここまでにします。
ここまで書いて軽く気分が悪くなったので、残りを書くか全く不明です。
私がこの話を書こうと思ったのは、この残り2冊の犯人も「異常な虚言癖」を持っていたからで、ことわざにある「嘘つきは泥棒の始まり(※平気で嘘をつくようになると盗みも平気でするようになる。嘘をつくのは悪の道へ入る第一歩であるということ)」というのは、実際あるのかもしれないと感じたからです。
もちろん人間大小の嘘は生きていく上で全くついたことがない、なんて人はいるかもしれまれませんがごくごく少数だと思います。
ですが極端な虚言癖を持つとなれば話は違います。
本書もそうですし、その他2書の犯人も強烈な虚言癖の持ち主です。
それだけで「極端な虚言癖の持ち主=犯罪者」と考えるのは早計でしょうが、可能性として虚言癖を持っていない人よりは高いのではないか、とふと思ったわけです。
最後に当たり前の話ですが、一定の確率でこのような犯罪を犯す人間がいるという事実は、人事じゃなく心に止めておく必要はあると思います。
欧米では25人に1人、日本じゃ2~300人に1人が良心や善意を持たない俗にいう「サイコパス」が潜んでいる可能性があるらしいです。
この確率、相当高くないですか?
……記事のカテゴリが休憩所だけど、今更ながら全然休憩所になってない気がする。
コラムを拝読して。
サイコパスという概念を知ったのは此処数年なのですが、生まれ付き?全く微塵も良心の欠片も持ち合わせない特殊な人間が居るらしいというのは私も大人になってから薄々思っては居ましたが、サイコパスの概念を聞くまでは「そうは言っても、まさか実在しないだろうな~」と思って眉唾でした。
でも、居ますね。うん。確実に居ます。これまで2~3人ですがそういう人に実際に出会って、私も興味があったので怖いながらも親しく話してみて、観察しました(笑)
これはサイコパスだなと思った人のうち1人は、親しくなれそうな人を見付けると先ず最初に「これからこいつをどうやって騙そうかと考えながら話す。相手は全然それに気付かない。それが楽しくて堪らない」と言って満面の笑みで教えてくれました。
観てると実際に息を吐くように嘘ばかりついていて、過去や現状を語っても支離滅裂で壮大な話ばっかり。資産や人脈が荘厳なことになっているのですが、「またなんか言ってら」と思って聞く分には毎度毎度楽しませてくれます。が、中には騙されて巻き上げられてしまって悔しがってる人も多数。勝手に梯子酒について来ておいて散々飲み食いして飲み代を踏み倒すなんて基本。そこで判りそうなものですが。
その調子で次々と人を騙しては小銭を巻き上げて行き、ありもしない仕事をでっち上げてはフリーの営業担当??だと言って仕事を取って来る振りをして、よくあれで消されないもんだなと感心します。1~2年にいっぺんぐらいのペースで風の噂にそいつが生きてて全く同じ調子で悪さばっかりしているのを聞くと、ああ元気に詐欺やってんだなと思ってしまいます。人は殺さないみたいなので、みんな知ってても放置です。
どうしてるのかしら、福富町の地縛霊、**さん。今日も元気に詐欺やってますか。死んだら街をあげて全員喜ぶでしょうね。
ちょっと調べてみると虚言癖は反社会性パーソナリティ障害、つまりサイコパスの症状の一例として心理学的には見られているようです。
なのでやはり可能性は高いのでしょうね。
ただこの事件では犯人が異常者(精神病者)と認定してしまうと死刑に出来ないから法廷でそのような発言はするなといった対応が取られていたそうです。
興味本位で近づくという行動はどうなのでしょう。
対処法を調べても近づくなとしか出てこないので、やめておいたほうが良いのではないかと。
あと、特に訴訟も起こされてない一個人の実名はまずいのでこちらで伏せさせていただきました。