【コラム】紹介しようと思ったもののやめたお話

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昨年の6月6日、最初の記事「竹林の小屋」から、明日で1年を迎える本ブログ。
現在約400話ほど紹介しています。
自分の好きな話、気に入った話のみを載せていますが、中には載せようと思ってやめたお話も結構あります。
1年目最後の日、最後の記事。せっかくなので1つだけ紹介します。

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おじいちゃんの短歌

高校の時、大好きなおじいちゃんが亡くなった。
幼い頃からずっと可愛がってくれて、一緒にいてくれたおじいちゃんだった。
足を悪くし中学のころ入院してから数ヶ月、一度も家に帰ることないまま亡くなってしまった。

私は入院し始めの頃、毎日のようにお見舞いに行った。
家族の誰よりもたくさん顔を出した。
なのにある日
「……誰だったかな?」
と、私の顔を見たおじいちゃんが呟いた。
誰よりもたくさん会いに来てたはずなのに……
私はその日から病室へ入れなくなった。
また忘れられているかと怖かった。

高校に上がりバイトを始めた夏休みに、おじいちゃんは亡くなった。
誰にも見取られることなく一人で静かに亡くなってしまった。
私は現実として受け止めていなかった。
火葬場でも私一人笑って見送っていた。
母は私の気が狂ったと思ったらしい。
それくらい異様なほどに現実感がなかった。

49日が近づいていたある夜、私は夢を見た。
普段あまり夢は覚えていないのだが、あの日の夢は今でも忘れられない。
「おぉ、元気そうだなぁ。良かった良かった」
おじいちゃんは生前愛用していた座椅子に座っていた。
私は膝の上に座っていた。
「おじいちゃんひどいよ! 私のこと誰だって言うんだもん。忘れちゃったんでしょ」
「忘れてないよ。寝ぼけてただけだよ、ごめんな」
おじいちゃんは私の頭をゆっくりとなでてくれていた。
「おじいちゃんなぁ、おまえの前では、しっかりした頼もしいおじいちゃんでいたいんだよ。だから、おじいちゃんが残した思い出は、おまえは見るだけにしといてくれな」
「は?」
そこで目が覚めた。
普段より2時間も早い起床だった。
台所では母が朝食を作っていた。
私を見るなり玄関のダンボールを指差し泣き出した。
そこには、おじいちゃんが病室で書き溜めた短歌が本になっていた。
おじいちゃんが開いていた短歌教室の生徒さんが、お金を出し合って自費出版してくれたものだった。
そこにはたくさんの歌があった。
『結婚』『戦争』『息子』『孫』……章に分かれて書かれていた。
最後は『死』だった。
その歌の訳は、
『死ぬときは一人がいい。弱った最後の姿を見られたくはない』
それともう一句……
『自分は万人に好かれる人間ではないけど忘れられるのは怖い、死ぬのは怖い』
初めておじいちゃんが死んだんだと確信した。
溜まっていた涙が溢れた。
母が後ろから
「おじいちゃんの形見だからね。1冊持っていきなさい」。
私は泣きながら何度も読み返したが結局受け取らなかった。
それがおじいちゃんの遺言だと思っていたから。
最後まで会いに行けなかった私へ、天国に上がる前に挨拶に来てくれたんだと今でも信じている。

今でも私の中のおじいちゃんは優しくて頑固で、ちょっと見栄っ張りなままだよ、おじいちゃん。

902 あなたのうしろに名無しさんが・・・ 04/01/29 22:57

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こういう故人を偲んで出す本を古書業界では「饅頭本」と呼ぶそうです。
葬式饅頭の饅頭代わりに配ることから、このような名前になったとのこと。
なくなった方の作品や業績、生い立ちなどが書かれていたりしますが、残念ながら私家本(自費出版)なので、市場に出回ることは稀です。
昔ながらの古本屋なら店先のワゴンに入って叩き売られてたりするみたいです。
世の中は広いもので、この饅頭本を収集している方もいるようで。

そういえば数ヶ月ほど前に、私の母が「饅頭本」をある方から頂いた、ようなことを言っていたような。
その方は戦争で戦果をあげた方だったので戦争中の話が書かれていたみたいですが、機会があれば読んでみようかなと思います。
多分紹介はできませんが。

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コメント

  1. なむ より:

    1年おめでとうございます
    いつも興味深く読んでいます
    これからもよろしくお願いします

  2. kaiitan より:

    ありがとうございます。
    のんびり続けていきます。

  3. ジオラマ より:

    一周年おめでとうございます。いつも楽しみに拝見させていただいています。これから本格的に暑い季節の到来ですが体調にはお気をつけください。これからもよろしくお願いします。

  4. kaiitan より:

    >ジオラマさん
    ありがとうございます。
    暑い季節に少しでも涼められる話を探します。

  5. yamakage18 より:

    遅ればせながら、おめでとうございます
    おかげさまで涼しい夏を過ごせました
    更新頑張って下さい

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