【コラム】指狩り族は本当に実在したのか?一次ソースを探してみた

以前、紹介したお話の中に「ゆびきりむら」というのがあります。

簡単に説明しますと、九州のかつては栄え今では寂れた炭鉱街で実際に起きた連続保険金詐欺事件のお話です。
自ら指を切断し、保険金を取るという手法でしたが、お話の中では子供を殺害して保険金を取ろうとするところまで発展したため、本格的に捜査され事件が明るみになった、とのことでした。
投稿者はこれをウィークエンダーというテレビのワイドショーで見たそうです。

さて、この「ゆびきりむら」連続保険金詐欺事件ですが、私も別のところで知る機会がありました。
それが作家、貴志祐介氏が書いた「黒い家」というサイコホラー小説です。
黒い家は角川が主催する日本ホラー小説の第4回にて大賞を受賞し、1997年に書籍が刊行されました。
ストーリーとしては、こちらも保険金詐欺を題材にしたもので、登場人物の一人である菰田重徳(こもだしげのり)が、指がなく「指狩り族」だという記述があります。

「小坂重徳で名寄せしてみたら、もう消滅しとるけど、しっかり既契約があったわ。こいつは、『指狩り族』の残党やったんや」
「指狩り族?」
「聞いたことないか?かなり有名やったで。障害給付金を取るために、自分で自分の指を切断しよった連中や」
若槻は菰田重徳が家の中でも左手に軍手をはめたままだったことを思い出した。あれは、欠損している指を隠すためだったのか。
生命保険の特約のひとつに傷害特約というものがある。怪我によって所定の障害状態になった場合に、主契約である保険金の何割かの給付金が支払われる。
火災の説明によれば、十数年前にある地方の作業現場で障害給付金の請求があいついだことがあったという。いずれも作業中の事故で手指を切断したというものだった。
当時、ほとんどの生保では手指の切断は保険金額の一割の給付に過ぎなかったが、親指の場合は二割になった。このため、ほとんどの『事故』で、そろって左手の親指を切断するという珍現象が発生したらしい。
引用:貴志祐介「黒い家」(角川書店) より

 小坂重徳は、その後全国を転々としたに違いない。そして、九州で指狩り族事件に関わり、関西に舞い戻って偶然、菰田幸子と再会し結婚した……。
引用:貴志祐介「黒い家」(角川書店) より

貴志祐介さん自身も朝日生命保険を8年間勤めていて、その時の知識が黒い家では各所に出てきます。
この「指狩り族」についてもその時の経験から得たものなのでしょう。

ですが「指狩り族」についてネットで調べても、はっきりとした情報がなぜか出てこないんです。

例えば「指狩り族」で検索すると現在一番にヒットするページにはこう書かれています。

その原型は、「指狩り族」と呼ばれた、手指の欠損事故による補償だ。

工場等の事故で指を欠損した場合、数十万から100万単位の保険金が支払われる。それを狙って、わざと自分の指を切り落とすケースが多発して名付けられたのである。

引用:保険あるところに詐欺あり。「指狩り族」「自動車保険詐欺」「カレー事件」「旅行保険詐欺」まで、手口を「全部」暴く(6/7ページ):nikkei BPnet 〈日経BPネット〉

いやいや、日経が運営するページの記事ですら、これだけです。
ちなみに集団保険金詐欺事件の項目には2010年の新聞のソースがしっかり貼られているにもかかわらず、指狩り族についてはたった数行です。
これでタイトルに「指狩り族」って書いちゃうんですから、むしろこの記事のほうがタイトル詐欺だろ、と(笑)。まぁ冗談ですが。

このページ以外は、個人ブログなどで黒い家の話から検索に引っかかっているだけ。
もちろん、本当の保険金詐欺事件に言及はしていません。

それで、ふと思ったわけです。

「本当に『指狩り族』っていたの?黒い家が出たあとからの情報しかネットでは見当たらないし、もしかして貴志祐介さんの作り話だったりしないの?」

もちろん「ゆびきりむら」の投稿がありますが、こちらも投稿日は2003年ですし、当然テレビのキャプチャーもありません。

それで俄然気になってしまったわけです。

そもそもネットの情報なんてたかだか2000年以後に一般化してきたわけで、それ以前は個人の趣味ページや学術研究の発表の場みたいなものでしたから。20世紀の情報を探るなら紙を掘るしかないんだろうなぁ。
という結論に達し、図書館で探すことに。

新聞の電子検索が可能な図書館ということで、東京都立中央図書館に行きました。
ここでは朝日新聞、毎日新聞、読売新聞について過去の記事を全文検索できます。
ただパソコンによって調べる新聞が違うので適宜申請になります。そして1回の閲覧が最大30分という制限があります。
混雑していなければ継続して閲覧可能です。

手始めに「指狩り族」で検索すると、意外な結果が帰ってきました。

「検索結果0件」

マジかよ!と思わず漏らしたことは言うまでもありません。
地域で絞ったり、年代で絞ったりしても、どの新聞でも全く出てきません。
キーワードを変えて「指狩り」にして検索してみました。が結果は変わりませんでした。

これ……どうすんや?

軽く絶望です。
さらにキーワードを「指」にしてみると年代を絞っても数千という結果が出て、だめだー、となりました。
なんとなく一次ソースがネットで書かれていない理由を見た気がします。
それでもこの数千というキーワード結果を地道にコチコチと見ていきました。

どれくらい見たか検索PCを変えながら小一時間くらい記事を見てて、ふと投稿のタイトルを思い出しました。

「ゆびきりむら」

指狩り族ではなく、指切り村……もしや?

というわけでキーワードを「ゆびきりむら」で検索。

「検索結果0件」

ま、まぁそうだよね。
今度は「指切り村」で検索。

「検索結果0件」

削って「指切り」で検索。

すると、検索がヒット!
ただ「指切り」という言葉自体は、「指切りげんまん」という言葉もあるように日常キーワードですから記事もあるだろうと

……ってこれだ!!

ついに一次ソースを発見しました。

自分の指切り保険金搾取
町係長が700万円
福岡県田川 主婦ら32人も逮捕

【田川】福岡県田川地方で、自分の指を切って傷害保険を搾取する事件が続発しているが、福岡県警捜査二課、田川、宮田両署は二十日午前十時半、この事件で田川郡大任町一五八六、町水道係長安武竹治(50)を詐欺容疑で逮捕、町役場を捜索した。いずれもばくちの借金など遊興費に困っての犯行で、自分の”指を食う”おぞましい犯罪に住民もショックを受けている。
調べによると、安武はさる二月十三日午後一時半ごろ、役場の水道機材倉庫で棚を作っている最中、オノで故意に左手の人差し指を第二関節から切り落とし、地方公務員災害補償基金から障害補償一時金など計焼く三百一万五千円と県農業共済から後遺障害共済金六十万円など計百二万、総額四百三万五千九百五十円をだまし取った疑い。
(中略)
同県田川地方は数年前から”指切り事故”が相次ぎ、次々に障害保険金の支払いが続いたため、県警捜査二課などが捜査に着手。今年2月から暴力団員、金融業者、主婦など三十二人を詐欺容疑で逮捕している。
これまでの調べで、借金の催促・指切り勧告係、切り役など組織的に役割を分担しているグループが三つか四つあり、追求している。
読売新聞夕刊 昭和57年(1982年)9月20日

結構長い記事なので端折りましたが、この町役場の人が強要して切らせていたようです。
組織化されていて、切る専門の部門があったようですから…なんとも。

九州の炭鉱ということで、筑豊地域であることはおおよそ分かっていましたが、これで裏がとれました。
ちなみに、結城昌治さんの「白昼堂々」という小説がありまして、いわゆる集団万引きをテーマにした小説です。こちらのモチーフになったのが、同じく筑豊のどろぼう部落と言われてます。話が逸れるのでこのへんで。興味のある方は読んでみてください。

ただ新聞を探しても「ゆびきりむら」で書かれているウィークエンダーに紹介されたような幼児殺害という情報は出てこず。
指切りで調べたからなのかもしれませんが。

ウィークエンダーでは昭和50年台の事件ということですからおそらくこの新聞記事の事件とみて間違いないかと思います。

実は、指切りの保険金詐欺についてはこれ以外にも幾つかヒットしてます。
一番古いものだと朝日新聞の昭和44年(1969年)10月8日の夕刊に載っています。
他にもいくつか同様の詐欺事件はあるものの、地域が筑豊じゃないんですよ。
兵庫県、なんです。
察しがいい方は気付くはずですが、兵庫といえば山口組。ですから、記事を見る限り暴力団構成員だったりその周辺の方々が捕まってます。

貴志祐介さんが筑豊の田川で起きたこの事件を元に、黒い家で「指狩り族」をマクガフィンとして持ち込んだことは想像できます。ただ今回の調査では「指狩り族」というキーワード自体は紙面上では見つけることが出来ませんでした。
紙面では「指切り保険金詐欺」や「指切りサギ」という表現が使われていました。

「指狩り族」という言葉は、いわゆる業界の隠語として昭和50年代から流通しているものなのか、それとも貴志祐介さんが小説を書くにあたり、インパクトの強い言い回しとして造語したのか、それは今のところ不明です。

現在では「指を切って保険金詐欺を働いた人たちの総称」は「指狩り族」として認知されちゃってますね。これは貴志祐介さんの功績であることは間違いないでしょう。

昭和50年代以前に保険関係のお仕事をしている方がいたら、ぜひ情報をお寄せください。

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  • 名無し

    渡辺淳一氏の小説に似た話しがあります。

  • 名無しさん

    昔の新聞って犯人の名前どころか住所まで載ってたのか
    今や名前すら出ないやつらまでいるのに

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