グーニーズ

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あれは俺が小学校3年生の事だった。
俺は当時団地に住んでたんだ。団地と言っても3階建ての小さな団地。
そして同じ団地に住む同級生3人、名前は仮にAとBとCにしておこうか。
俺達4人はいつも一緒に遊んでた。好奇心旺盛で、いつも暗くなるまで遊んでたよ。

俺達の住む団地の前には古ぼけた長屋があった。言っちゃ悪いが本当に古いんだ。
子供の力でも蹴ったら穴が空きそうで、ドアもグラグラ。鍵かける意味あんのか?と言いたくなる程。
家賃幾らだよと思う位古ぼけてボロボロの長屋なのに満室だった。今考えればきっと家賃が格安だったんだろうな。

住民は変わってる人が多かった。ゴミ屋敷もあれば、窓に新聞紙貼ってる人とか、野良猫を溺愛してるおばさんとか。
とは言え、こちら側に危害を加えてくる訳でもなく、会ったら笑いかけてくれる人なんかもいたんだ。

しかし団地に住む子供は、あまり長屋に近づかないよう親に言われてた。
その理由は、長屋の中でも一際異質なおっさんのせいだ。

いつもボロボロの服を着てて、顔が半分変形して、足が悪いおっさんだった。
誰があだ名をつけたのかは覚えていないが、団地の子供内でグーニーズと呼ばれていた。
(グーニーズ(※財宝を探す少年達の冒険を描いた映画)に出てくる、悪役家族の3男スロースのイメージね)

子供の声と自転車のブレーキ音と犬の鳴き声が嫌いで、奇声を発しながら傘を持って追いかけてくるんだよな。
実際追いつかれても、訳の分からない言葉で怒鳴られて終了するだけで、被害とかはなかったんだけどね。

団地や近所の住民も困り果てて、何度か警察に行ったみたいだけど、実質的な被害がないという事と、頭が~という理由で何もしちゃくれなかった。
上記の理由で、長屋には近づくな。会ったら喋らず目を合わせるな。近づいてきたらすぐ逃げろ』と常に言われてた。

そんな時に、警察が来る事件があった。
何でも、グーニーズと隣に住む猫溺愛おばさんが喧嘩になったらしい。
原因は、グーニーズが夜中に暴れてうるさいとの事。
夜中にグーニーズの意味不明な奇声と、おばさんのキャンキャン声で、誰かが警察を呼んだんだろうな。
しかし所詮はただの口喧嘩。その日は何事もなく収まった様だ。

団地に住む子供はたくさんいる。
グーニーズは様々な学年でまたたく間に有名になり、わざわざ見に来る子供まで出てきた。
しかし団地に住む大人達にはいい迷惑。刺激してほしくないという理由から学校に通報。
ついには朝礼で『決して行かない様に!』との勧告まで出る始末。
おかげ様で取り敢えずグーニーズブームは終了した。

そんな矢先に事件は起きた。
親父が慌てて外に出て行った。そして血相を変えて家に入り、「早く家を出ろ!」と叫んだ。
俺は訳が分からないまま母親に連れられて外に出るハメに。

そして隣は勿論、団地住民が続々と避難する様に飛び出して来た。
しかし実際は避難するまでもなく、警察、消防車、救急車が到着。
そして母親が「何もないみたいよ、もう大丈夫」と言って家に帰った。

後から聞いた話だが、夜の20時頃、グーニーズが隣の長屋の窓をバットで割り、そのまま次々に長屋の窓を割りまくったらしい。
窓の割れる音で飛び出した親父+近所住民が見た時は、グーニーズが奇声を発しながら灯油を撒いてる姿だったらしい。
さすがのグーニーズもこれは洒落にならん。御用となった。

暫くは灯油の上に散布されたピンクの粉と、警察が何やら調べていたので落ち着かなかったが、一ヶ月後には何事もなかった様に平穏になった。団地の住民はほっとしてただろうな。

その後半年程経ち、夏になった。
4年生になった俺達は相も変わらず仲良しで、虫取りに夢中になってたかな。
その時は同じクラスのDとEも一緒だった。合計6人。
グーニーズがいなくなっても、長屋へ近づくのは禁止事項だった。

しかし、子供が注意事項なんてそう守らないよな? その頃は平気で長屋の近くで遊んでたよ。
そんな時、ふとグーニーズの住んでた所で足が止まり、Aがこんな事を言い出した。
A「なぁ……グーニーズの家に入ってみねえ?」

俺は驚いた。つーか俺の家の親父は半端なく怖くて、そんな事がバレたらぶっ飛ばされる。
俺「いやいや、駄目に決まってんだろ。そんな事したら捕まるって!」
A「誰も住んでないのにどうやって捕まるんだよ。いいじゃん行こうぜ」

この案にBとCとDはあっさり乗った。正直俺も興味があったが、親父の制裁が怖くてどうしても無理だった。
結局俺と団地住民ではないEは、外で見張りをする事になった。

Aが扉に手をかけると鍵がかかっていた。しかし強く引っ張るとバキッという音と共にドアが開いた。
3人は興奮しながら中に入り扉を閉めた。
俺とEは持ってきたボールでキャッチボールを始めた。

そして待つ事3分、Cが家から出てきた。
C「家の中凄ぇ臭っせえ!まじうんこ散乱してるってこれ!」
俺達は笑ってしまった。

そして待つ事更に数分。あいつらは帰ってこない。一体何をしてるのか。
声をかけようとしたその時、
キャアアアァァアーーーーー!!
凄まじい悲鳴が轟いた。

え?え?何だよこれ?俺とCとEは訳が分からない。中に入る事も怖くて出来ない。
バン!!
Aが出てきた。そして少し遅れてDが扉から転がり出て来て、ゲーゲー吐いた。

俺はもう怖くて怖くて堪らなくなって家に走った。
俺の家は共働きだから誰も居ない。取り敢えず一階に住んでるBのお母さんの所に泣きながら走った。
俺は泣きながらだったしパニック状態だったから、上手く話せなかったと思う。

それでも俺を見て尋常じゃないと思ったんだろうな、Bのお母さんは武器?箒を持って家を飛び出した。
そして隣の人にインターフォンで警察を呼ぶよう指示して、俺と一緒に走った。

Bのお母さんがグーニーズの家に入って、すぐに叫び声が聞こえた。
そしてBと一緒に出てきたが、ガタガタ震えるBを抱えてお母さんはうずくまってしまった。

その後警察が来て、何やら保護者全員に説明をしてた。俺の母親も警察から呼び出しを受けて帰ってきた。
俺とCとEは事情を知らない。母親に訊いても何も教えてくれなかった。
そしてその晩、俺は親父の鉄拳制裁を受けた……
俺は奴等を止めた。そしてグーニーズの家に入らなかった。でも殴られた。何だこの理不尽は。

そして親父は言った。
「もうな、隠してもどうせ伝わるやろうし言っておく。○○さんな……あの家で死んでたんや」
後から知った話だが、グーニーズは死んでただけじゃない。腐乱してやがったんだ……

俺達はグーニーズが帰って来てたなんて知らなかった。親達も知らなかった。
外出禁止になったのか、それとも黙って勝手に住んでたのかは分からない。でもグーニーズはあの家に居た。
怪我人もいないし、頭も~だから帰されたんだろうな。でもあの家は引き払う様言われてたみたいだ。

この事件は学校中に広まった。
Aはバカだから、次の日にはケロっとして皆に言いふらしてた。Dは驚いたみたいだが平気だった様だ。
問題はB。PTSD、トラウマだ。

Aの話を聞くと、家に入った瞬間から無茶苦茶臭かったらしい。絶対うんこだと笑ってたんだとよ。
しかしA以外は、凄まじい臭いで吐きそうだったらしい。現にCはリタイヤしたし。
家の中には意味不明なガラクタとかあって面白かったんだって。
当時流行ってたキン消しなんかもあって盛り上がったらしい。

そして、襖を開けたら何か大きな物体があった。
近くでよく見ると何かモゾモゾ動いてる。蟲だ。大量の虫が蠢いてるんだ。
それを見て誰かが叫び声をあげた。

Aはそのまま出口にダッシュ。Bは腰が抜けて立てなかったみたいだ。
そんなBを何とか担ごうとDは頑張ったが、所詮は小学生。無理だと悟り、取り敢えず外に逃げた。
実際にあの物体がグーニーズだと認識したのはBだけだった。

Aは物体の上で蠢く蟲の大群を見て気持ち悪くなり、悲鳴を上げ逃げた。
その逃げるAを見てDも怖くなり、連鎖反応で逃げた。
しかしBは腰が抜けて、その物体を凝視する時間が出来てしまった。
想像するに、どんな光景だったろうか。

腐乱した人間に蟲?映画なんかでよく見るけど、あれの数倍気持ち悪いんだろうな。
人間の穴と言う穴から蛆なんかが出て来る光景なんざ考えたくもない。まして見知った人間なら余計にな。
幼い子供のトラウマになるのも、今じゃ分からないでもない。

それきりBとは会っていない。団地に住んでても思い出すだけだろうしなぁ。どこかは知らないが引越していった。
子供ってのは意外と薄情なもんで、Bの事は暫くすると話題も出なくなった。

しかし、街を揺るがす様な事件が起こった。
2年生の女の子の頭をハンマーで殴る、という残虐な事件だ。
幸い命に別状はないが、何針も縫う大怪我だったそうだ。

その事件は続いた。
他にも小さい女の子がまたハンマーで殴られた。
他にも男の子が殴られて怪我をした。ランドセルを引っ張りこけて蹴られた。
この事件に街は騒然となった。学校は集団下校になり、パトカーは至る所で赤灯を回す、自警団まで出没した。

そんな時、ある噂がたった。
被害を受けた児童達がグーニーズを見たと言っていると。
軽傷の男の子は犯人の似顔絵まで書いた。話によると、それはまさしく俺達の知ってるグーニーズだと。

俺は本気で怖かったよ。AやC、Dも同じだったと思う。勝手に家に入ったんだ。恨まれててもおかしくない。
恥ずかしながら、夜は寝れなくて母親と一緒に寝た。何度も怖くて泣いた。
親父が俺を抱きしめて言ってくれた事は今も忘れないな。
「大丈夫だ、きたらワシがボコボコにしてやる」
当時は頼もしかったが、今考えりゃあんたどれだけ暴力的なんだよ。

学校中がその噂に包まれてた。
グーニーズは子供の声が嫌いだから、常にハスキー声で話す事。
警察が苦手だから、会ったら敬礼すれば逃げて行く。等など。
挙句の果てには似顔絵まで出回った。

俺達当事者はそれを見るだけでも怖かったし、帰りに見る大人が皆グーニーズじゃないかと身構えた。
夜は勿論、昼間も一切外に出なかったし、母親は仕事を休んでずっと一緒にいてくれた。

しかし、そんな事も1週間で終わりを告げた。
犯人が捕まったんだ。
犯人は隣の猫溺愛おばさん。団地住民は本当に驚いた。
猫溺愛おばさんは野良猫を引き取るから糞が迷惑だ、という事以外は普通の人だったからだ。

子供達は「グーニーズの呪いだ」「生まれ変わったんだ」と口ぐちに噂した。
実際は心神喪失状態だったそうだ。隣のせいでかなり精神がやられてたんだって。
思えばそれが弾けて、腫れものであるグーニーズと喧嘩したんだろうな。
しかしその喧嘩のせいでグーニーズの標的になり、相当嫌がらせを受けてたみたいだ。

でもやっとグーニーズが逮捕されてほっとした、でもすぐにグーニーズが帰ってくりゃ頭もおかしくなろうというもんだ。
でも実際は、頭がおかしくなっても子供を襲う、なんて選択肢はそう生まれないよな?
ずっと隣に住んでたグーニーズに感化された。それを憑依したと例えてもあながち間違いじゃない。

それに不可解なのは、被害に遭った子供が口を揃えて「グーニーズにやられた」と言った事だ。
犯人はグーニーズより一回り小さなおばさんだ。見間違うはずがない。
でもグーニーズの恐怖は学校中に広まってた。似顔絵まであちこち貼られてたんだ。

子供の思い込みってのもあるのかな?今となっては分からない。
でもそう思えるのは大人になったからで、子供の頃はマジでグーニーズが乗り移って子供を襲うってのを信じてたな。

すまない、俺の話はいつも怖くないな。オチもついちゃいないがこれにて終了だ。
余談ではあるが、孤独ってのは辛いな。
病気になってすぐに死ぬって、世の中にどれだけあるのかな?
実際に、すぐ救急車を呼べば命は助かるって事例は多いんじゃないか?

グーニーズの家には電話なんてなかっただろう。あっても苦しい最中に電話なんて出来ただろうか?
俺には幸い妻も子供もいる。だから俺が家で倒れても、助かる道を探してくれるだろう。

しかし独りならそうはいかないよな。苦しくて倒れても助けを呼べない。そのままもがいて死んでも誰も発見してくれない。
まして何ヶ月も放置されて腐乱してしまうとか、考えるだけでも嫌過ぎる。
身近に誰かいるってのは本当に有難い。

SRさん

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コメント

  1. ヤボッッコミ! より:

    信用度 10%

    真偽はともかく

    近所に変わった人がいると

    嫌だな!

  2. 匿名 より:

    米欄に蠢蟲老害がいると嫌だな!
    お前も腐乱してしまえば良いのに。

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