うちの父がまだ若かった頃の話だけど、ある老夫婦をアメリカの田舎の空港まで連れて行った事があるそうだ。
その老夫婦は父の知り合い。
年取ってから授かった一人息子さんを、決して余裕のある暮らしじゃない中でいい大学まで出してやって、その後息子さんは卒業旅行に行ったままアメリカに住み着いてしまった。
それでも時折手紙が来て『夢を追って充実した暮らしをしている』らしい事で安心していた。
暫らくしてその息子さんから『生活の目処がついたから一度こっちに遊びに来たら?航空券を送るから』って誘いが何度も来るようになったけど、嬉しいものの当時はおいそれとは老夫婦がアメリカまで行けない。
グズグズしているうちに、当の息子さんが現地で通りすがりのトラブルに巻き込まれた何かで行方不明に。
多分、もう生きてはいない事を覚悟していたものの、諦めきれない老夫婦は現地に行ってせめて息子の足跡を追ってみたい、息子が生きていた証、誠実な息子さんがどういう風に友人達と暮らしていたか知っておきたい、という理由で渡米を決意。
でも英語もろくに出来ない老夫婦が、そんな観光地からも外れた日本人が殆ど居ない現地に行っても何も出来ない。
そこで英語に堪能だった父が、共通の友人から頼まれて一緒に現地入りした。
(老夫婦が息子を追って心中することも心配したらしい)
でも、その追憶旅行は最悪の結果だった。
息子さんはスラムの中で薬と酒、女に身を持ち崩していた。
数少ない友人っぽい連中に会っても、息子さんの悪行ばかり聞かされ、レイプ紛いの事まで日常的にやっていたそうだ。
行方不明も身から出た錆っぽくて、チンピラ同士のトラブルで消された可能性が高い。
父は出来るだけ割り引いて老夫婦に伝えたけど、住んでいた場所とか雰囲気とかで、老夫婦も息子さんが思っていた生活ではなかった事を察したのか、老夫婦は打ちひしがれて父と一緒に帰国した。
でも、父が聞いていたのはそれだけではなかった。
父は息子さんを知っていた現地の人間から、息子さんが日本に居る両親をぼろ糞に言っていて、しかも酒に酔った時、
「金が欲しいから両親をこっちに呼んで、どこかで事故に見せかけて殺して、受取人が自分になっている保険金を取ろう。手伝ってくれたら分け前をやるから」
と息子さんから誘われた。
「しかしいくらなんでも両親を殺すなんてとんでもない話だから、相手にしなかった。大体あいつは薬で頭が逝かれていたからな……」
とか、信じられない話を聞いてしまった。
しかし流石にそれは老夫婦には伝えなかった。
その老夫婦は今では鬼籍に入っているし、
息子さんの両親殺人計画だって、ただの酒か薬に酔った冗談だったのかもしれない。
父からこの話を聞いたのは大人になってからの一回きりだった。
その老夫婦のお爺さんの方は、私が子供の頃に時々家に遊びに来て知ってる人で、私をとても可愛がってくれていた。
遊びに来た時よく「昔、事故で行方不明になった息子さん」の話題になったけど「優秀で、優しくて、親孝行な息子さん」だったといつも言っていて、私もそうだと信じていたな。
その時父は黙って頷いていたよ。
でもどうして、父が私にこの話をしたのか。
真面目な父だから嘘ではなかったと思うけど、昔だったといっても人一人が簡単に行方不明(多分殺人事件で)になったり、捜査も満足にしないで終わるってるものなのか、とかそのへんのところは判らないけどね。
(肝心の父も、今は脳梗塞の後遺症で痴呆になってしまっていて確認がとれない)
だけど本当なら後味悪い話だと思う。
133 本当にあった怖い名無し 2007/02/14(水) 08:29:50 ID:V6OqLp2C0
スラム街じゃ日常茶飯事
自業自得としか…
てか老夫婦??息子が大学卒業後、何十年も後の話か??
切ない話やなぁ