母屋とは切り離され、敷地の北東の角、つまり鬼門にあたるところにその厠は建っていた。今でこそ田舎でも簡易水洗のおかげで明るく清潔なトイレに変身したが、ほんの数十年前までは薄暗く不潔な汲取り式の便所が大半だった。 Kさん宅の厠も、壁はところどころ地肌が見えるほど痛み、苔むした屋根瓦の何枚かは今にも落ちそうだった。申し訳程度の小さな窓しかない古い厠は昼間でも薄暗く、鼻をつく匂いが澱のように淀んでいる。日が暮れると、天井からぶら下がる、わずか10Wほどの明るさしかない裸電球が、弱々しく陰気な光で厠の内部を... 続きを読む

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