峠の地蔵様

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あれは確か小学校1年くらい、もしかしたら幼稚園だったかもしれない。
30年くらい前の話。

ある日クラスで遠足に行くことになった。
遠足と言うかハイキングみたいなもん。
みんなで弁当持ってとある山に登った。

道中の事は何も覚えてない。
オレは特に仲良しの友達がいる訳でもなく、ぼっちだった。
皆わいわい言いながら歩いてる中で、多分1人淋しく歩いてたと思う。

で昼飯の時間になった。
記憶にあるのは山の中腹のちょっと開けた所で、貯水施設とおぼしき建物と巨大なタンクがある場所だった。
皆それぞれ仲のいい友達と方々に散らばって弁当を広げ始める。
先生が
「余り遠くへ行っちゃダメですよー」
って言ったのを覚えている。
ぼっちのオレはみんなからちょっと離れた所で弁当を広げて1人寂しく食べ始めた。
別に仲間はずれにされていた訳ではないし自分からグループの輪に入っていけばいいのだが、極度に内気だったオレはそれが出来なかった。
でも1人で食うのは恥ずかしかったし下を向いて小さくなって食ってたと思う。

暫くしたその時、女の子3人組がオレの所へやってきて
「一緒に食べよー」
って誘って来てくれた。
すごく嬉しかったが女子と一緒に弁当を食うなんてやっぱり恥ずかしいし、男の奴らに冷やかされるのが怖かった。
暫くモジモジと躊躇してたと思うんだが、でもオレはその女の子3人組に半ば強引にひっぱられ、みんなのいる方へ連れて行かれ、4人で輪になって弁当を食い始めた。
何を話しのかはサッパリ覚えていないが、とにかく恥ずかしかったのだけは覚えている。
でもやっぱり内心嬉しかった。

そしてちょうど弁当を食い終わりかけたくらいのその時、男2、3人が
「うわー女と弁当食ってるー」
ってオレを見つけ、からかってきた。
クラス全員がオレを見る。
周りから一斉に笑い声がするが上を向けない。
恥ずかしくて恥ずかしくて、どうしようもなかったオレは下を向きながらその場を離れようと山の頂上の方に歩き出した。
弁当はどうしたか覚えていないけど、確か置きっぱなしで逃げるように歩き出したと思う。

でここら辺がよく分からないんだが、何故か山道をひたすら1人で歩いて行ったんだな。
何か中央が吹き抜けみたいに崖になってて、その周りを道がらせん状に巻いている山道だった記憶がある。
何の目的があって1人で歩き出したのか分からないが、多分恥ずかし過ぎて皆の居る場所から逃げたかったんだろうと思う。

ふと気が付くと全く知らない景色のいい場所に居た。
まあ知らないのは当たり前だけど。
周りに誰もいないし声も聞こえない。
ヤバイ、迷子になった!
初めてそこで気が付いた。
焦った。遅いってな。

今思えば来た道をひたすら引き返せばいいようなもんだが、やっぱり小さい子供だしそれが出来なかったんだろう。
ちょっと引き返したり、またちょっと進んだりしてオロオロと彷徨った。
その内泣き出して、
かーちゃん
ばーちゃん
助けてー
って泣きながら闇雲に歩き回った。
かなり大声で泣きながら彷徨ってたと思う。
あれだけ大声なら誰か見つけてくれそうなもんだけど誰も来なかった。
もしかしたら皆が探してる声も自分の泣き声で聞こえなかったのかもしれない。

かなりの時間彷徨っていたと思う。
なんか日が暮れてきた感じだった。
ふと見ると道端にお地蔵さんが数体、赤いおべべ? を首元につけてたたずんでいた。
この場面はかなり鮮明に覚えてる。
未だに夢に見るくらい。
なんか異様に綺麗なお地蔵さんだった。
そんなに人も来ない場所なのに汚れてなくて、お供え物も何も無かった確か。
反対側は開けていて崖になっていた。
街が眼下に見渡せる景色の綺麗な場所だった。
オレは泣き止んでお地蔵さんに夢中でお祈りをした。
「どうか家に帰れますようにお願いします」
的な事を一生懸命祈った。
オレの家は神社の近くだったし、今は死んでしまったばあちゃんがよく
「神様仏様には毎日お祈りしなさい」
って言っていたし、ガキの癖に信仰心があったというか、寝る前は神様仏様にお祈りをしたりしていたから。
お地蔵様が絶対に助けてくれると思って必死に拝んだ。

ひとしきり拝んでその場に暫く佇んでいた時
「おーい」
って呼ぶ声が聞こえた。
オレは急いで声のする方向に走り出すとクラスの子数人がオレを見つけて
「あ! いた! 先生いましたーー」
みたいな事を叫んだ。
あの時の助かった感は今でも忘れない。
めちゃめちゃ嬉しかった。

そのあと皆のいる場所に連れられて戻ったのだが、昼メシの後遠足を中止してずっとオレを探してくれていたらしい。
まあ当たり前だわな。
先生は泣いて喜んでるし皆には冷やかされるし、とにかく申し訳ないのと恥ずかしいのと、何よりオレはなんてバカなんだろうって思った。
その後家に帰って遠足の迷子の話をしたかどうかは覚えていない。
特に親にもばあちゃんにも言わなかったと思う。

それから月日は流れて確か中学3年の時だった。
オレは友達とその迷子になった山を登っていた。
理由は忘れたが、多分暇だったから2人で探検でもしてたんだろうと思う。

登ってる途中で友達が言った。
「そう言えばここ小さいとき遠足で来たな覚えてる?」
そう言われて初めて気が付いた。
10年ぶりくらいだったが直ぐに記憶が蘇ってきた。
そこは迷子になった時とほとんど変わってなくて、あのらせん状の山道がそのまま残っていた。
そうだそうだここだったみたいな。
オレ「そう言えば遠足でここ来た時オレ迷子になったの覚えてる?」
友達「マジで? ぜんぜん覚えてねーわ」
みたいな会話をしたと思う。
その時初めて友達にお地蔵様の事を話した。
ちょっと恥ずかしかったけど、必死で拝んでたら皆が探してきてくれて見つけてくれたんだって。

で、そのお地蔵様を友達と2人で探したんだけど全然見つからなかった。
街が見渡せる絶景ポイントがあって絶対ここだったんだけどなーって場所は見つけたんだが、お地蔵様はなかった。
かつてそこにあった形跡も一切無かった。

オレは帰ってばあちゃんにその事を話した。
そしたらばあちゃん曰く、あそこはオレの生まれるずっと前、隣町に山を越えて行く為の峠道だったが、昔から神様の住む山と考えられていたみたいで神様どうか通らせて下さい的な事でお地蔵様が置かれたという事だった。
でも、ある時崖崩れがあって峠道が土砂で埋まったらしい。
それで道を作り直すときに何かの理由でお地蔵様を撤去したらしいんだ。
でよくある話だけど、それからその工事中に事故で結構な人数の人が亡くなったそうだ。
結果道は出来たんだけど、ろくな舗装もされないまま投げやり的に工事は終わらせてしまったらしい。
だからお地蔵さんはもうない筈だって。
ばあちゃん曰く、これはお前の生まれる前の話だからお前が遠足に行った時にはお地蔵様はとっくにいない筈だよ、って。

オレはかなりビビッて、心霊体験だってひとり騒いでたけど、ばあちゃんは冷静に言った。
「お地蔵様が助けてくれたんだよ」
「だからこれからも神様仏様は毎日お祈りしなさいよ」
って。

オレはもうおっさんだが、今でも毎朝お祈りは欠かさない。
終わりです。

6 :名も無き被検体774号+:2013/03/20(水) 21:22:17.28 ID:arr67v+Q0

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コメント

  1. 河童工房 より:

    子供のころの悪夢
    霞がかかった薄暗く日の光がささないけど手足元は明るい世界で
    地蔵さんのある場所。
    怖くなって逃げだすんだけど また元の場所に。
    地蔵さんは無言で一度だけ心に直接呼びかけてきた=口を開いた。
    「おまえに会いたがっている者がいる」
    と。
    祖母と父が亡くなったとき久しぶりに
    悪夢のその場所地蔵さんの前で会い
    「もしかして死んだのか」「 そうだ」と会話した夢を覚えてます。
    自分、気づかずに幽体離脱していて別の世界に入り込んでいたんでしょうね。

  2. 匿名 より:

    ええ話やな 多くを語らなくても伝わるいい教訓

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