地下の世界

僕が小学4年生の時、夏休みも残すところあと1週間と少しといった時の話です。
その日は台風が近づいていたため、朝から風が結構強かったです。

僕は9時半ごろに起きて、蒸し暑い中、朝ごはん代わりの雑炊(カニ味)をすすりながら夏休みアニメ劇場を見ていました。
何度も再放送されているあさりちゃんやかぼちゃワイン、パーマン、ハットリ君などをぼんやり見ていましたが、やがてアニメも終わりすることがなくなった僕は、しばらくの間畳の上でごろごろ転がっていたのですが、ふとあることが気になり始めました。
『そういえば家の近くの山を登ってしばらく行ったところにある空き地って、いつも強い風が吹いてるなあ。台風の日なんかもっと強い風が吹いてるんかなあ?どうしよっかなあ。行ってみよっかなあ』
という考えが頭の中に広がって、気になってしょうがなくなってきたので、僕は家で飼っていた「プチ」という犬を散歩させるついでに見に行いくことにしました。
空き地と言う表現は間違ってるような気がしないでもないですが、まあとにかく開けたところです。

僕が外出の準備をしていると、母が
「台風来てるのにどこ行くん?」
と聞いてきたので、僕は
「ちょっとプチの散歩に行ってくるわ」
と答えると母は
「もうすぐ昼ごはんやし、雨降るかもしれんから早めに帰ってきいや」
と言いました。

外に出ると生ぬるいながらも結構涼しい風が吹いていたので、家の中よりも快適に思いました。
空一面にはどんよりした重苦しい雨雲らしきものが、結構なスピードで流れていました。
僕が犬小屋のプチに「散歩行くぞ」と声をかけると「ワグ」っと小さく吠えて、のそのそと出てきました。
ちなみにプチは当時2才半ぐらいだったので立派な成犬(雑種)でした。
父が飼い始めた犬で一応僕にも懐いていましたが僕より賢そうなとこが気に食わなかったので、僕にとっては愛犬というほどのものではなかったです。

僕の家は山の斜面を切り崩して作ったような所に建っていて玄関を出ると坂道になってます。
その坂道に沿うようによその家が連なっています。
坂道を登って行くとやがて民家はなくなり、木がいっぱい生えていて森っぽくなってくるので、一応そこら辺からを山と呼んでました。
プチのヒモを掴んで外に出た僕は大きく背伸びをして、ついでに大きくアクビもしました。
その途中に隣の家から
「●●君どうしたん? プチの散歩ー?」
と大きな声で僕を呼ぶ声がしました。
見ると、幼馴染で1つ年下のK子が2階の窓から顔を出していました。
ちょっとびっくりした僕は
「う……ん、ちょっと散歩でそこまで」
と言うと、K子は
「あたしも行くからちょっと待っててー」
と言って顔を引っ込めると階段をドタドタ降りる音がして、何か喋る声が聞こえ出てくるのかと思えばまた階段のドタドタが聞こえ3,4回階段を上がったり下がったりの音がしてやっとK子が外に出てきました。
その間5分ほどです。

僕が「遅いやないけー」と言うとK子は「まあまあ、気にせんと……」と言いながら、すり寄ってくるプチのペロペロ攻撃を器用にかわしていました。
K子は右手に手さげカバンらしきものを持っていたので僕が「何それ?」と聞くとK子は「いいからいいから、はよ行こう」と言ったので僕は別に気にすることもなく目的地目指して歩き始めました。
その間「宿題はもう済んだのか?」「昨日の夜ご飯は……」「雨降るかなあ……」「この前のひょうきん族が……」「台風のおかげで虫にさされにくいなあ……」「どこまで行くの?」「上のほうのいつも風が強いとこ……」「ああ、そういえば……」などのくだらない話をしていました。
やがて目的地の空き地にたどり着きました。

予想通りというかなんというか、道中も台風のせいで風が強かったのですが、空き地の方は普段の何倍も強い風が吹いていました。
プチは風の強さに興奮して走り回りたいようなので、ヒモを放してやるとワンワン吠えながらおおはしゃぎしていました。
当然僕もK子もキーキーキャーキャー喚きながら、風圧で顔をくしゃくしゃにして腕を広げて追い風でジャンプしたり、グルグル回ったりして遊んでいました。
そのままキャッキャと遊んでいると、いきなりドガッシャーンっと物凄い音の雷が鳴りました。
一瞬で一同石化って感じです。
それは文字通り一瞬のことで、プチはすぐに空に向かってわんわん吠え出しK子は泣きそうな声で「こわいーこわいー」と言いながら僕にしがみついて来ました。
普段であれば雷など平気なK子ですが、山の中で波打つ草木に囲まれての雷にはかなり恐怖を感じたようです。
僕は「大……丈夫、大丈夫やんけホラ~」と言うと、K子は「エヒヒヒ…」と照れ笑いをして手を離しました。

安心したのもつかの間、今度はポツ…ポツポツポツドバーと大雨が降ってきました。
僕が「雨や、あそこ行こ!あの木の下!」と言って近くの大木に向かって走ると、K子は頭を押さえて芝居がかった口調で「ヒィーーー」と言いながら、僕の後ろからついてきました。
さらにその後ろからはプチもハァハァ言いながら付いてきて、2人と一匹で木の下で雨宿りです。
K子は「すごい雨やなー」と言いながらハンカチで顔を拭いていました。
僕はハンカチを持ってなかったので腕でぬぐいました。
僕が
「もう少ししたら弱くなるかもしれんから、それまでここで雨宿りしとこっか?」
と言うとK子は不機嫌そうに「うーん……」と返事をしたあと「はーあ」とため息をつきました。
それで二人して空き地のほうを見つめていました。

空き地は幼稚園の運動場程度の広さで、背の低い雑草がそこかしこにはえています。
特に遊べるような作りにはなってないので普段からここに来る人はあまりいません。
……ふとK子の方を見やると、ほんのり膨らんだ胸の辺りに2つの突起物が目に入りました。
雨に濡れたせいで透けて見える2つのBT区……僕の目はそれに釘付けです。
しだいに幼い僕の頭の中は良からぬ妄想でいっぱいになりました。
すると一転を見つめる僕の視線に気づいたK子は「どうしたん?」と聞いてきました。
びっくりした僕は「え?っと……腹減ったなあって思って……へへへ」と言うと、K子は手さげかばんを両手でつかんで
「あれ? なんでわかったん? 見たん?」
と言ったので、僕は
「え?う……それって?」
と、冷静さを失った僕をよそにK子は
「じゃーん!! クッキーの缶ーー」
と言って、かばんの中から大きなクッキーの缶を取り出しました。
一瞬で安心した僕は
「おおでかした! 腹減った! くれ!」
と言うと、K子はニヤニヤしながら
「きのうの夜みんなで食べたからー残り8個ー」
と言ってふたをあけると、本当に8個しか入ってませんでした。
1つが500円玉くらいの大きさでした。
僕が
「何個くれんの?」
と聞くと、K子は「んーと、あたしが4個で、●●君とプチが2個ずつな。」
と言ったので、僕が不満気に
「プチに2個?」
と聞くと、K子は
「プチもお腹すかしてるんやから2個ずつ! 私は4個!」
と強い口調で言ったので、僕はしかたなく「へーい」と答えました。
そしてK子は「配給のお時間でーす」と言って、クッキー2個をまずプチの目の前に置きました。
するとプチは一口でモリモリムシャムシャと食べてしまいました。
次は僕の手の平にクッキー2つが置かれました。
そしてK子は「K子お嬢様は4つ」と言って、自分の手の平にクッキーを4つ乗せました。
と、その瞬間プチが寄ってきて、K子の手のひらを舐め取るようにしてクッキーを奪い取ると、木の裏に逃げていきました。
K子はキレそうな表情で半泣きになると
「あたしのクッキー、あたしのクッキー取られたぁ」
とわめきました。
僕はK子にもらったクッキーをすぐに口に入れて、
「えー?(モグモグ)何ー?どうか(モチャモチャ)したー?」
と言うと、K子は
「もう! あほぅ! 飼い主がわるいんやろ! どうしてくれんのよ!」
とキレまくりでした。僕は
「まあまあ……プチもお腹すかしてるんやから」
とK子がさっき言ってた言葉をそのまま言い返しました。
木の裏ではプチが大雨の中でも聞こえるように、ガフガフとわざとらしい音を立ててクッキーを食ってました。
K子は
「ムカつくわー腹立つわー」
とボソボソつぶやいてました。

するとクッキーを食べ終えたと思われるプチが急にワンワン吠え始めました。
いったい何事かと思って、僕とK子は木の裏に回りました。
するとプチのすぐ目の前になにやら小さな小さな竜巻の様なものがうず巻いてました。
ビール瓶を逆さにしたような大きさでした。
土のカスや枯葉の切れ端がクルクル回っています
僕は
「なんやろこれ?」
と言ってその竜巻に手を突っ込んでみました。
続いてK子も手を突っ込みました。
さらにプチは竜巻に向かって体当たりをしましたが無論素通りしました。
二人して「なんやろなーなんやろねえ」などとほざいてたら、なんだか視界がザラザラになってきたように思い、目の前の風景や自分の手さえもがなんだかよくわからないぐちゃぐちゃな状態に見えて、何が何だかわからなくなってきました。
僕は必死になってぐちゃぐちゃに見えるK子らしきものの手を握り、プチのヒモらしきものを掴み「離れんなよ!」と叫びました。
K子も僕と同じように視界がおかしくなったようで、「目が変や」と言いながら目をこすってるようでした。
プチもワンワン言いながら暴れていました。
どうしたらいいかわからなかったのですが、木の裏にいてると向かい風のせいで雨にかかるので、とりあえず元の場所にK子とプチを引っ張りました。
ここだと木が盾代わりになるので、雨も風もある程度防いでくれるのです。
K子は不安と恐怖のせいかフーフーハーハーと荒い息をしながら、うずくまって目をゴシゴシしているようでした。

僕は何か助かる方法はないかと、周囲を見渡しました。
目の前に広がるのは緑色のグチャグチャな景色でした。
しかし遠くの方の木らしき物に、なにやら長方形のドアが付いているのがはっきり見えました。
僕が「おい!あれ見い!」と叫ぶと、K子は「あれ?あれ……ドアがあるー!」と言いました。
僕はすかさず「行ってみよ!!」と言って、K子の手とプチのヒモをしっかり握りなおすと、ゆっくり歩き出しました。風が強すぎるのとキツイ雨、さらに視界がぐちゃぐちゃなため転んで怪我しそうだったので、ものすごくゆっくり歩きました。
ドアの所に辿り着いた時には、もう当然びしょ濡れです。
はっきり見えるそのドアはどこにでもありそう木目調のドアで金属製のノブが付いていました

僕はドキドキしながらゆっくりとドアを開けました。
ドアを開けるとその中には白い地面と夜の景色、そしてどこかの林の中のようで木がいっぱい生えているのが見えましたどうやらドアの向こうはグチャグチャにはなってないようです。
K子はびっくりしたように「うわー」と言いました。僕は「行こ!」っと言って、まず一番にドアをくぐりました。
続いてプチ、K子と入ってきました。
K子もプチもドアをくぐった瞬間ハッキリした姿で見えました。
もちろん僕の手足もハッキリ見えました。

ドアの方を振り返ると今までぐちゃぐちゃに見えていたはずの景色も元に戻っていました。
ただ僕もK子も多分プチも、さっきの後遺症が残ってるのかはわかりませんが、体が少しフラフラして酔っ払ってしまったような状態になりました。
例えて言えばカシスオレンジ2本を一気飲みしたような感じです。
視界ははっきり見えるようになったのですが、今度は意識が少しおかしげになったのです。
僕がフラフラしながら「ここどこやろ?」と言って、空を見上げると木々の枝の隙間から星空が見えました。
そしてその空からは白い物がゆっくりと雪のように降っていました。
手で受けると冷たくなくて、解けもしなかったので、雪ではないようでした。
地面はその白い物で覆われているようです。
そしてまわりは並木道の様に木が並んで生えていました。
もう一度後ろを振り返って全体を見渡すと配電室のような小さなコンクリート製の建物に付いてるドアを僕たちは通ってきたようです。
K子が周りを見渡して
「きれいやねー。今は夜みたいやから、ここ地球の裏側の国かもしれんねー」
と言ったので僕が
「地球じゃなくて、日本の反対側やろ?」
と言うとK子は
「ああそうかー、そうそうそう日本の反対側にある国かもしれんねえ……ぷははは」
と笑い出し、地べたにゴロンと仰向けになって、なおも
「ひゃははは、クーックク」
っと笑い続けました。
プチはぐにゃーっと寝そべってます。
それを見た僕も、安心したのと酔っ払ってるような現象のせいで、K子と同じように仰向けに寝そべって一緒になって笑いつづけました。
そしてしばらくケラケラ笑ってると、その場にいきなり女の人の声で
「ちょっとあんたら何してんの!?」
という声が響きました。
その声に、笑っていた僕もK子も飛び起きました。

見ると両手に買い物袋をさげた女の人が5mくらい離れた所からびっくりした様な表情でこちらを見つめていました。
僕はしどろもどろになりながら、
「えっ……と、あの……その……ここどこですか? 日本人ですよね?」
と聞きました
女の人は
「ここは地面の中やから地下の世界かな? あんたらはどこから来たん? 名前はなんていうの?」
と聞いてきたので、僕は
「僕は●×●●10歳デス。えっとそれから……こっちのこっちの……」
と言ったところで、K子の姓をド忘れしてしまったので、言葉に詰まってたらK子が僕の肩口からヒョイと顔だけ出して
「あたしは◎◎K子9才です!!」
と言ったので僕は寝そべってるプチを指差して
「こいつはプチって名前です!えーと、ボクたち日本の何々県の××市から来ました!」
と言うと、K子がまた顔を出して、後ろを指差し
「その、そこのドアから入ってきました!!」
と言いました。

女の人は
「へえー……ちょっとあんたら、私の家近くにあるんやけど遊びにこん?」
と言いながら近づいて来ました。
僕とK子が顔を見合わせてると、女の人が
「あんたら濡れてるやん! 寒いやろう? うちに来て風呂でも入り」
と言いました。
するとヒューっと風が吹いて、なぜ今まで気づかなかったのかと思うくらいに寒気を感じました。
僕とK子は小声で
「行く? 行こっか?」
とやり取りした結果、このお姉さんについていくことにしました。
お姉さんをよくよく見ると、20代前半のようで色白でかなり美人で目がきらきらしていて、つやつやした黒い髪が肩より少し下くらいまでありました。
そして何よりも僕の目を釘付けにしたのはお姉さんの爆乳とそれによって生じるスベスベの胸の谷間です。
おねえさんは真っ黒いドレスのような、今で言うゴスロリという種類の服を着ていて、それの胸の谷間の見え具合が半端じゃねえって感じでした。
K子の透けBT区なんて記憶の彼方に消し飛んでしまいました。
僕が頭の中をいやらしい妄想でいっぱいにしていると、お姉さんは
「じゃあ付いてきて」
と言ってくるっと背を向けたと思ったら、もう一度こちらを向いて、
「あーそうそう●●君男の子やからこれ持って」
と言って、僕の方にユサユサブルンブルンと近づいてきました。
僕が(お、お、おっぱいを?)と考えていたらお姉さんのボインがみるみる近づいてきて、僕の間近でかがむとお姉さんの髪の毛が僕の首筋に当たり、甘い香水のにおいがしてお姉さんが
「早く~持ってぇん」
と囁いたので、僕は心の中で
「だめぇ!! K子が見てる! K子が見てるのぉー」
と熱い戦いを繰り広げつつも、欲望に負けて両手をおずおずと差し出すとズシリと重たいおっぱいの感触ではなく、ズシリと重たい買い物袋が両手に握らされていました。
お姉さんは
「落としたらあかんよー」
と言って、背を向けて歩き始めました僕がボーっと突っ立っているとK子はお姉さんの言葉を真似するように
「落としたらあかんよー」
と言って僕を追い越してお姉さんと並んで歩き始めました
そして前の方で二人が楽しそうにしゃべり始めました。

しかたなく僕もしぶしぶと歩き出しました。
僕たちがやってきたドアを背にして少し進みとT字路になっていて、右の方はずーっと並木道が続いており、正面は木々の間から白い建物が見えました。
お姉さんとK子は左の方に曲がりました。左の方も並木道が続いていました。
並木道のところどころには青白い光を放つ街灯が立ってました。
お姉さんとK子の会話の内容は大体こんな感じでした
K子「お姉さんの名前はなんていうの?」
お姉さん「わたしはサオリっていう名前なんよ」
K子「お姉さんは何してる人?」
お姉さん「ちょっとカガクの実験してるんよ」
K子「空から降ってきてる白いやつはなに?」
お姉さん「天井のコケが落ちてきてるんよ」
K子「ここってほんとに地下?あれは星空じゃないの?」
お姉さん「あれはコケが光ってるだけ」
K子「ほんまかなあ~?ほんまかな~?」
K子「ここにはお姉さん一人で住んでるの?他には誰かいるん?」
お姉さん「今は私だけかなあ」
K子「お姉さんいい匂いするなあ。香水つけてんの?」
お姉さん「自分で作った香水つけてるんよ」
K子「私も欲しいなあ」
お姉さん「じゃああとで上げるわ」
K子「ほんまー?ありがとう」

そのあとも何か喋ってたようですが、僕の頭が少しでも早く歩いて追いついて谷間を鑑賞してやることしか考えられなくなってしまったので、そのほかの会話内容は記憶にないです。
プチは僕の後ろからずるずるとひもを引きながら歩いていました。
右手の方角にはさっき正面に見えていた横長の白っぽいアパートのような物がずーっと見えていました。
明かりがついている部屋は一つもありませんでした。
街灯は相変わらずところどころに立っていますが、大して明るくないので、アパートがはっきり見えるのが不思議でした。
まるでアパートの自体が光を発してるようでした。
僕は周囲の風景に目を取られながらもどうにか前の二人に追いついて、ボインをチラッと見ようとしたら、お姉さんが
「●●君はお腹すいてるぅー?」
と聞いてきたので、僕は
「えっと、ハイ、朝に雑炊(かに味)食べただけなんで腹減ってます」
と答えました。
するとK子が
「あたしのクッキーも食べたやろー!」
と怒りました。僕は
「ああそうやったっけー?」
と言いながら、ユッサユッサブルンブルン揺れるお姉さんのボインをチラチラ見ていました。
お姉さんはクスクス笑って
「あんたら二人とも仲いいねえ」
と言いました。
K子はヘラヘラ笑うとアパートの方を指差し、
「お姉さんはそこのアパートに住んでんの~?」
と聞きました。お姉さんは
「えーっと奥にもまだあって、3つ目のアパートに住んでるんよ」
と言いました。

やがて並木道を抜けると、右に曲がってアパートが正面方向に見える状態で歩き始めました。
そして小川にかかった短い橋を渡りました。
覗き込んでみましたが、生き物はいないようでした。
左手の方からはざざーざざーと波の音が聞こえました。
波の音がする方向は真っ暗で、海があるかどうかハッキリしませんでしたが、ずっと遠くにもたくさんの星空(?)が見えました。
時おり強い風が吹いて、地面のコケが波の音のする方に向かってツツツーと流れていました。
アパートに近づくと後ろの方にも同じアパートが建ってるのが見えました。
アパートは4階建てで鉄階段が外付けされてありました。
ざっと見た感じ横8部屋×4階の32部屋で階段は4つありました。
アパートがいくつあるのか気になったので道の左端に寄ってみると、はるか遠くの方まで同じアパートが連なってるのが見えました。
一つ目と2つ目のアパートを通り越し、3つ目のアパートまでたどり着き2つ目の階段の4階左側の部屋がお姉さんの住まいでした。
そこまで来ると僕はもうしんどくて、ボインのことなどどうでもよくなり、ただただ休みたいだけでした。

お姉さんはドアを開けて中に入ると「あんたらも入りー」と言ったので、僕とK子は恐る恐る入りました。
お姉さんが
「買い物袋はソファーの上において」
と言ったので僕は
「ああ重かったー」
と言って、そばにある大きなソファーの上に置きました。
中は暖かく玄関は結構広くソファーのほかには壁に靴箱が埋め込んであり、隣に帽子掛けのような物が置いてありました。
そこにプチのヒモを引っ掛けました。
お姉さんは
「ちょっと着替えてくるから待っといて。あんたらの着替えも持ってくるわ」
と言うと、長い廊下を奥の方に走って角を曲がってしまいました。
「着替え」と聞いてしまった僕がじっとしていられるわけがありません。
K子はソファーにもたれて買い物袋をつまんでくるくる回しながら「牛肉とトリ肉と・・・」などとブツブツ言ってます。
プチも顔を近づけてフンフン鼻を鳴らしています。

僕はスっと立ち上がると、壁にかかってるよくわからない風景の絵を見るふりをしながら、早足で奥に向かおうとしたらフッと左手の方から寒気を感じました。
見ると窓付きのボロ目のドアがありそこから冷たい空気が漏れ出しているようなのです。
ドアの上には長めのかまぼこ板のような物が打ち付けてあって汚い字で「しょうちゃんのへや」と書いてありました。
まわりの壁はつやつやの木製でお洒落な雰囲気なので、そのドアの存在が不自然に思いました。
気になった僕は窓に顔を近づけ中をのぞいて見ました。
中は薄暗くて窓ガラスが汚いせいではっきりとは見えませんでしたが何人かの人らしき物がうずくまっているようなのが見えました。
僕が
「K子ちょっと来てみい」
と言うとK子は
「どうしたん?」
と言ってからドアに気づき、窓に顔をへばりつけました。
僕が
「誰かいるみたいやねん」
と言ってドアをコンコンと叩くと、K子が
「わっ!」
と言って飛びのきましたした。

見るといつの間にかドアの向こうに僕と同じくらいの背の高さの男の子が無表情で立っているのです。
僕とK子がしげしげと見ていると、そいつが指で何かをつまんでクリッと回すジェスチャーを始めたので、僕が
「開けて欲しいんかな?」
と言うと、K子が
「開けてみようか?」
と言ったので、僕はドアの鍵を開けました。

するとドアがキキーっと開き、中から目を細めた男の子が出てきました。
その男の子は半ズボンをはいていて、上は(元は白かったと思われる)茶色がかった汚らしい半そでのシャツを着ていました。
手足や顔には血の気がなく不気味なたたずまいでした。
その男の子は何も喋らず、僕とK子もどうしたらいいかわからなかったので黙ってると、男の子はこちらを向いたまま後ろ手で鍵を閉めました。
僕が
「えっと……まだ中に人いるんとちゃうの?」
と言うと男の子はニヤーっとゾッとするような笑みを浮かべました。
するとプチが背後から
「グルルー」
と恐ろしげなうなり声を上げました。
僕は何かとんでもなくヤバイことをしたような気がして心臓がドキドキしました。

しばらくすると廊下の奥からパタパタと足音がしてお姉さんが
「ハイ着替え持って来たでー」
と言いながら現れました。
戻ってきたお姉さんはピンクの可愛いパジャマに着替えていて、ギョッとした表情で周囲を見渡すと
「ちょっとお!!出したんッ!?」
と叫ぶように言いました。
それに反応して男の子がお姉さんの方に振り向くと、お姉さんは
「イヤーッ!!」
と言って僕とK子の為に持ってきてくれた着替えのパジャマみたいなのを男の子の顔に投げつけると、背を向けて逃げ出しました。
男の子もそれを追うようにして廊下の奥に消えました。
奥からはガラスが割れる音や物が落ちる音がして何やら激しく争っている様子でした。
呆気にとられていた僕とK子ですが、僕はこうしちゃいられねえ!お姉さんを助けるという聖的行為のドサクサにまぎれて、おっぱいを揉みしだいてやるぜ!というすばらしい作戦を思いつきました。
(姐さん今行くぜ!!)と心の中で叫び、奥に向かってダッシュしようとすると、廊下の角の方から何かが飛んできて、壁にゴンと当たって落ちました。
一瞬勢いを失った僕が「なんじゃらほい?」と近寄ろうとすると、K子が僕のシャツの袖口をギュッとつかんで怯えたような口調で
「クビ……クビ……」
とつぶやきました。
僕が「え?クビ?」と言ってもう一度前方を見ると今床に落ちたはずの物がなくなっていて、代わりに血の染みのような物が残っていました。

僕が「あれ?今のやつは?血?」と言うと、K子が今度は泣きそうな声で「手が出た!今そっから手が出た!」と言って、何がなんだかよくわからない僕は「手?あれは血?」などとわけのわからない反応をしていると、廊下の角からさっきの男の子がゆっくりと現れました。
しかし口のまわりは血だらけで、シャツも腕も血だらけでした。
右手には人間の首みたいな物をつかんでいて、よく見たらそれはお姉さんの顔をしていました。
そしてその切断面を自分の口に押し付けるとジュルジュルと音を立てて吸い始めたのです。
ニヤニヤした表情で横目でこちらの方を見ていました。

K子が小声で
「逃げよ……早く逃げよ……」
と言ってきたので、僕とK子がじりじりと後ずさりを始めると、そいつはいきなりお姉さんの首を僕の足に投げつけました。
僕はびっくりして尻もちをついてしまい、お姉さんの髪の毛が僕の足にくっ付いて、虚ろになった目を見てしまい「ふわあああ」と間抜けな悲鳴を上げてしまいました。
その直後、僕の真横をフッと風が通り抜けたような気がして、次の瞬間プチが男の子に体当たりをしていました。
僕はすぐに起き上がるとK子の手を握って「逃げろ!」と叫び玄関ドアまでダッシュで走りました。

K子を先に外に出してから、振り返って「プチー!!」と叫ぶと男の子が右手にプチの首を、左手にプチの胴を持ってブラブラと揺らしていました。
僕はプチを殺された怒りや悲しみよりも、男の子の化け物ぶりの方に物凄い恐怖を感じました。
僕は「オラー」と叫んでソファの上の買い物袋の中身を床にまき散らしてから、外に逃げました。
階段を下りるとすぐにK子に追いつき、二人で必死で地面をめざしました。
そしてあと数段で地面に足が着くという時、階段のすぐそばの地面にいきなりさっきの男の子が落ちてきたのです。
一瞬で先回りされて、さすがにその時は「うおをわーー!!」と絶叫して死を覚悟しました。
K子は火がついたように泣き出しました。

しかしよく見るとその男の子は4階から飛び降りた衝撃のためか起き上がれずに、顔だけこちらに向けてもがいていました。
僕はすかさず地面のコケみたいな砂みたいなものをつかんで、そいつの顔面にぶっかけてやると、K子の手をつかんで「走れ走れ!!」と怒鳴って、最初に通り抜けたドアをめざして必死で走りました。
心臓がバクバクと鳴って今にも倒れそうになりましたが、気力を振り絞ってどうにかドアの前にたどり着きました。
そしてドアを開けると元の山の光景が広がっていたので二人でくぐりました。

周囲はだいぶ薄暗くなっていましたが、雨はやんでいて風は全く無く穏やかなものでした。
さっきの男の子が追っては来ないかと思って後ろを振り向くと、今通って来たはずのドアがなくなっていました。
ホッと安心した途端に涙がこぼれてきて、僕とK子とでメソメソと泣きながら山を降りてると、僕とK子の母親や近所の人 4、5人に発見されました。
「もうあんたらどこうろついてたんよ? お母さん心配したんやから! もう!」
とガミガミしかられてから、僕とK子はそれぞれの母親におんぶされて山を降りました。
母や近所の人が山を探していたのは、僕とK子がプチを連れて山に登っていくのを近所の人が見かけたからとのことです。

家に着くまでの間、僕はことの経緯をうわごとの様に話しました。
プチが死んだことも話しました。
母は適当に相づちを打っていましたが信じてくれたのかはわかりません。
それから3日間くらい僕もK子も高熱を出して寝込んでしまいました。
その間夢の中に何度かあの男の子が出てきました。
熱が引いたあと、数日前に体験した異世界での出来事に対して現実感がなく、あれは全部夢だったのではないかというような気がしました。
しかしプチがいなくなったという事実は消えません。

そのあと友達何人かと何度か山に上って空き地まで行ってみましたが、いつも吹いていた強い風はなくっていました。
やがて何ヶ月か経ってから僕は父の仕事の都合で引越しすることになり、K子と離れ離れになりました。
K子の寂しそうな顔は今でもはっきりと覚えています。

それにしてもあのボインの姉さんは何者だったのでしょうか?
もしかしたらお姉さんは魔女みたいな人で、僕とK子もあの男の子みたいな化け物にされていたのかもしれません。

478 本当にあった怖い名無し 2005/06/12(日) 22:55:23 ID:QTUiZp+N0 より

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  • 名無しさん

    おもしろかった。おもしろかったけど胸の描写がちょっとしつこい…緊迫感を和らげるクッションの役割なんだろうけどな

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