川の淀み

爺さんの葬式のときに聞いた話。 山村で生まれ育った爺さんがまだ少年だった頃、テツという犬を育てていた。 朝と夕方にテツと散歩をするのが爺さんの日課だったんだけど、長雨の後、数日振りに散歩へ行くとおかしな物を見つけた。 川の澱みに何か黒っぽいものが浮かんでいたそうだ。 「土左衛門か?」と思ってそれへ駆け寄ろうとしたら、テツが唸り声を上げて近寄ろうとしない。 仕方なく、テツをそのままにしてその物に駆け寄ると、それがのろのろと立ち上がった。 それが何だったのかは爺さんにも分からなかったらしい。 肌は白いような灰... 続きを読む

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海から来る音

先日、数年ぶりに母方の実家に行ってきたので、そこら辺にまつわる与太話をしようと思う。ちょっと長いかもしれないが、話半分程度にお付き合いいただけたら幸い。 俺の母方の実家と言うのが本当にド田舎。今でこそ山の上の方に高架道路なんぞが通っているが、昔は山間を縫うように走る狭い道に沿うようにして家が並んでいて村と言うよりは集落と言ってもいいような、そんな場所だった。 そんな場所だからかは知らないが、昔話やら伝承やらそう言った類の胡散臭い与太話には事欠かず。かく言う俺も子供の頃からここを訪れるたびに少... 続きを読む

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流れてきたもの

今の家に引っ越してくる前はもの凄い田舎の村にすんでいた。周りを山に囲まれ大きな川もいくつもあって、ほとんど外界の人が来ることは無かった。 ある日、学校から家に帰ると父親がちょうど出かけるところだった。長靴にカッパズボンと明らかに普通の格好でなかったし、もの凄く険しい表情をしていた。そんな父が何故出かけるのか気になり、長靴をはこうとしている父に「どうしたん?」と聞いた。 すると父は「ヒロちゃんが川で遊んでて行方不明になった」と険しい顔で言った。ヒロちゃんというのは近所の子供で3歳くらいの年だ。... 続きを読む

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思い出の釣り場

9年前のある日、釣りに出かけていた兄が顔を蒼白にして帰宅した。がたがた震えている兄に話を聞くと「怖い思いをした。○○ガマへは行くな。あかんぞあそこは、コワイモンがおる」と繰り返している。あたたかい紅茶を飲ませ、母と話を聞くとこうであった。 兄はこの時期、いつも釣りに通っているリアス式の湾内にこの日も朝からでかけた。自分たちは○○ガマといって、このガマというのは平家の落人が日々の生活のため塩田を切り開いた土地で、この地方にはいくつもそのような何々ガマという地名がある。 照葉樹林に囲まれた湾内の... 続きを読む

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